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ともだち塾の文芸日記

 
2009-04-03

婚約

カテゴリー: 日記
  婚約   辻 征夫


鼻と鼻が
こんなに近くにあって
(こうなるともう
 しあわせなんてものじゃないんだなあ)
きみの吐く息をわたしが吸い
わたしの吐く息をきみが
吸っていたら
わたしたち
とおからず
死んでしまうのじゃないだろうか
さわやかな五月の
窓辺で
酸素欠乏症で


 辻征夫は、1939年生まれで、子どもむけのものよりも、大人むけの詩を多く書いている詩人で、「隅田川まで」「落日」などの詩集がある。

 見つめあっている二人の、息遣いまで聞こえてきそうな、瑞々しい恋の詩である。
 
〈こうなるともう
 しあわせなんてものじゃないんだなあ〉

という、()の中のことばは、話者の内声だろうが、ひらがな書きであることで、なんとなく上擦った、調子っぱずれなことばに聞こえる。

 なんで、幸せじゃないんだろうか。
 婚約した二人が、

 〈鼻と鼻が
  こんなに近くに〉

あるほど、見つめあっているのだから、幸せの最高潮にあるはずだ。

 〈死んでしまうのじゃないだろうか〉
 〈酸素欠乏症で〉

というのも、すこし大袈裟なことばである。

 この詩の中のことばは、ことばとしては幸せとは反対の意味を持つことばが書かれている。
 では、この詩の二人が、幸せではないかというと、とんでもない。
 恋の幸せ、婚約の喜びでいっぱいの二人だ。

 それは、この二人の状況を読者がイメージするからだ。
 読者は勝手なもので、自分がいいように、自分が楽しいように、イメージづくりをしてしまうのだ。
 もちろん、そのようにイメージするように、作者が書いているわけだが・・・。

 「婚約」という題名からも、幸せな二人をイメージしてしまう。
 この詩が、「病室」という題名だとしたら、幸せな二人はイメージできないだろう。

 この詩にも対比がある。
 詩に書かれていることばと、読者のイメージが、対比しているのだ。
 〈しあわせなんてものじゃない〉〈死んでしまうのじゃないだろうか〉と書かれていても、読者のイメージが、「幸せじゃないか」「死ぬわけがないじゃないか」と対比して、よりこの詩のイメージが、強調されるのである。